「神様に選ばれた天使1」


僕は、生まれてこのかた〈愛された〉ことがない。

人間から産まれたはずなのに、僕は魔法どころか人間なら誰でも使える魔力を使えない。

他人よりも日光に敏感で、常にブラインドや日除けをしていないと肌は爛れるし目も光で眩んで見えなくなる。

それに加えて、この青白い髪に水色の目。

今は水色だけど、産まれた時は血のように赤かったせいで、魔物の子、吸血鬼の成り損ないなんてふうにも言われた。

親も、産まれてきた僕の容姿や周りの言葉が嫌になたんだろ。

家族と食事なんて事すら、僕の記憶には無い。

もちろん他人となんてほとんど会わない。

そもそも灯りのある場所じゃ目が眩んで外になんてほぼ出られないから、もっぱら薄暗い自分の部屋で、時たま親が置いていく本を読むばかりだ。

 

そんな僕の楽しみは、雨が降る日。

土砂降りならなお良い。

大抵の人間は天気が崩れると家から出ない。

だから、唯一僕が楽しいと思える本が山ほどある図書館に、誰にも合わずに行くことができる。

僕くらいの歳だと〈児童書〉とかいう本を面白がるらしいけど、そんなつまらない空想ばかり並べた本は嫌いだ。

そんなものより、歴史や天文学といった大人でも頭が痛くなる本の方が好きだった。

特に生物学の本は食い入る様に読んだ。

〈自分〉と言うものを知るために。

僕を罵ったヤツらを馬鹿にし、嘲笑うために。

だけど、いくら本を読んでも、僕の求めるモノは書いていなかった。

 

 

いよいよ図書館にある本を全て読みきってしまった頃、僕に転機が訪れた。

その日は恨めしいくらいの晴天で、僕はいつも通り自分の部屋に引きこもっていた。

特に何もない暇な1日になると思っていた僕の元に、黒い制服を着込んだヤツらと、見たこともないような堅苦しい服を着た男がやって来た。

 

「なるほど。キミが件のバケモノ君ですか」

「博士、不用意に近づいては!」

「問題ありませんよ」

 

堅苦しい服を着た男が独り言のように呟きながら僕に近寄ろうとすると、周りにいた黒服たちは慌ててその人を制止しようとする。

だけど男は黒服たちの制止を断って、ずけずけと僕に近寄ってきた。

 

「アンタたち誰?眩しいからさっさと閉めてよ」

「おっと、これは失礼。そこの君、奥の君だよ。悪いけど、その扉をしめてくれないかな?」

「えあ、はい」

 

僕の要求を聞いた男は、貼り付けたような笑みを口元に浮かべて僕に軽く謝ると、一部の黒服を残して部屋の扉を閉めるよう指示を出した。

指示をされた黒服の1人は困惑しながらも扉を閉め、部屋には僕を入れて5人ほどになった。

扉が閉まって薄暗くなった事で、ようやく僕はコイツらを認識する事ができた。

この〈博士〉とか呼ばれてた男、意外と若く見えるな。

 

「これで良いですね」

「扉は良いけど、アンタたち何者?僕に何か用?」

「そうですねぇ。本来なら、キミに説明する義理も無いのですが強いて言うなら、キミは私に〈買われた〉ので、衛兵と共に引き取りに来た。といったところでしょうか」

「ふ〜ん

 

扉が閉まったのは良いけど、コイツらが何で僕の所に押し掛けてきたのかが分からない僕は、再び直球で聞き返す。

すると男は、僕が男に買い取られたとか言い出した。

いわゆる人身売買か。

そりゃ、バケモノとか呼ばれてお荷物でしかない僕を引き取ってもらえるんだ。

そのうえさらに金まで出して貰えるとなったら、あの親たちなら喜んで僕を差し出すだろうな。

 

「おや、あまり驚かないのですねぇ」

「本と食事だけ置かれてほぼ隔離されてれば、売り飛ばされたって不思議には思わないでしょ」

「なるほど。では、今の生活に心残りはありませんね」

「は?心残りは無いけど、僕はアンタの所に行くなんていっ!!」

 

人身売買の話を聞いても僕の反応が薄い事に、男は興味を持ったように話しかけてきた。

それに対して僕は、またなんでもない様に今までの両親からの扱いを説明する。

すると、いつの間にかかなり僕に近づいていた男は、僕に心残りがない事を知って怪しく笑う。

その表情がシャクに触った僕は反論を仕掛けるが、喋っている途中で首筋に鋭い痛みが走った。

 

「悪いですが、時間もないので。それと、今キミは私の所有物です。キミの意見など聞く義理もないですよ」

「うっこの、ふざっ……

落ちましたか。今のうちに、私の研究室へ運んでください」

「「「はっ!」」」

 

首に何かを刺された僕は、その場に倒れ込みながら男を睨みつけた。

だが男は変わらず飄々とした態度を崩さず、今度は僕に物のような扱いをするみたいな話ぶりで嘲笑うようにそう告げてきた。

その態度が更にシャクに触った僕は何か言い返してやろうとするが、視界が歪んで意識も朦朧としてきて、結局なにも言い返せないまま意識を手放し、黒服たちに担がれて何処かへと運ばれて行った。

 

 

しばらく気を失っていた僕は、カチャカチャという音と鼻を突くような臭いで目を覚ました。

 

うぅここはっ!眩しっ!」

「おや、目が覚めましたか。それにしても、異常なまでに集光能力が高いですねぇ」

 

僕が連れて来られたこの場所は僕には明かりが強すぎて、うっかり開いてしまった瞳を条件反射で強く閉じた。

あまりの眩しさに目が眩むのを通り越して眼球が痛くなって、僕は涙を滲ませる。

その時、僕の様子に気付いた誰かが呑気そうに呟く声がした。

この声、たしか僕を買ったとか言ってた〈博士〉とかいう人だ。

 

「ふむ。明かりはかなり抑えたつもりでしたが、やはりあの部屋と同等の暗さでないとダメなようですねぇ」

さっきから、何言ってんの?あと、身体動かせないんだけど」

「キミは私の実験サンプルなのですから、動かれては困ります」

「あ〜、なるほど。僕はアンタに、人体実験のサンプルとして買われたんだ」

「そういう事です。それにしても、大抵のサンプルは暴れながら叫び散らすというのに、キミは全く動じませんねぇ騒がれるのも面倒なので助かりますが」

 

〈博士〉いわく、一応この部屋の明かりは抑えていたらしい。

けど一瞬で目も痛くなるし、灯りに当たっている胸や腹も痒いから光強すぎ。

だから徐々に痛痒くなる胸や腹を庇うために身を捩ろうとしたら、何故か身体が動かない。

それを〈博士〉に愚痴っぽく聞いてみたら、ある意味とんでもない事を言われた。

だけど、人間かバケモノかもハッキリしない僕をわざわざ買った事と〈実験サンプル〉と言う言葉で妙に納得した僕は、ただ淡々と事実を受け入れた。

そんな僕の様子に興味深そうな声音で呟いた〈博士〉だったけど、直後には実験がやり易いと楽しそうに言い放ってまた僕の側でカチャカチャと音を立てだした。

 

「ねぇ」

「あまり話しかけないで貰えませんかね。気が散ります」

「そう言われても、身体は痒いし目も開けられないし。何よりヒマなんだけど」

 

あれからしばらく経つのに、周りでカチャカチャ音がするだけでただずっと光に晒され続ける事につまらなくなった僕は、〈博士〉に話しかけてみた。

だけど〈博士〉は至極面倒臭そうに僕に黙るように言ってきたけど、ヒマでつまらないうえに身体を掻いたり捩ったりもできない僕はさらに不満を口にする。

その時、ふと面白そうな事を思いついて再度〈博士〉に話しかけてみた。

 

「ねぇ、アンタ僕を何かの実験に使うんでしょ。だったら、どんな実験や研究をするのか聞かせてよ」

「これはまた面白い事を言いますねぇ。ですが、私の研究をいくら説明してもキミが理解できるとは思えませんが」

「なに、〈博士〉とか言われてたクセして、自分の研究プランも説明できないわけ?それとも、実験材料にすら話せないヤバい実験なの?どうせ僕はアンタの実験に使われて死ぬわけだし、面白そうなのに」

「自分の死すら理解しながら、ずいぶんと楽しそうに言いますねぇ」

 

僕は〈博士〉に、自分がされる実験の内容を聞きたいと言ってみた。

それを聞いた〈博士〉はやっと僕の言葉に興味を持ってくれたみたいだけど、どうせ理解出来ないだろうとタカを括られる。

そこで僕はあえて〈博士〉のプライドに傷が付くような言い方で捲し立てた。

それが上手く行ったのか、〈博士〉は「ふむ」と何かを考えるように呟いて、すこしの間音が消えた。

 

「まぁ、良いでしょう。ここまで珍しい実験サンプルなど他に見つからないでしょうしキミの言う通り、実験材料として使い潰してしまえば、情報が外に漏れる事もありませんしね」

「やった!それで、まずは何をするのさ?」

「そうですねぇ」

 

しばらく考えてるように唸ってた〈博士〉は、僕と利害が一致したみたいで、声だけで分かるほど嬉々として僕の提案を呑んでくれた。

自分が実験台ってのはちょっと嫌だけど、どうせ逃げたり出来ないだろうし。

なによりこんなヤバそうな実験なんて、一生見聞き出来ないだろうからワクワクする。

そこで僕が今からやる事を〈博士〉に聞くと、これまた楽しそうに思案する声がした。

 

「まずは、キミという素材をもっとよく知らなければなりませんねぇ。〈人とも魔物ともつかないモノ〉とは如何なるものか、まずはそれを調べます」

「それって、僕が何者か調べてくれるって事?」

「平たく言えば、そうなりますね」

 

今から調べられる内容を聞いて、僕は内心で歓喜した。

てっきり変な薬剤を飲まされて薬の効果を調べたり、身体を切り刻まれて改造されるのかと思っていたけど

この人は僕がずっと知りたかった〈僕が何者か〉を調べてくれるらしい。

どんなに本を読み漁っても分からなかった〈僕自身〉が分かるかもしれない。

そう思うだけで興奮して、身体の痛みや痒みすらも忘れるほど鼓動が高鳴った。

 

「ずいぶんと嬉しそうですねぇ」

「そりゃあね。僕は、それを知りたくて街の図書館にある本を全部読んで調べたんだ。それでも見つけられなかった事を、今からアンタが調べてくれるんでしょ?」

「なるほど、そうでしたか。ですが、キミはその答えを知る事ができますかねぇ

 

僕の反応に楽しそうな声音で話しかけてきた〈博士〉は、僕の返答を聞いてこれまた楽しそうな声でクスクスと音を立てる。

だけど〈博士〉は、僕がその答えを知る事は出来ないかもしれないといったような事を呟いた。

その言葉に僕は、一気に心臓を鷲掴みされたような嫌な気分になる。

 

どういう事?」

「今に分かりますよ」

「全然回答になってないっ!?」

 

〈博士〉の言葉の意味を聞き返してもロクな返答はくれず、僕はその事に愚痴をこぼそうとした。

だけど僕が一言言い切る前に、何の前触れもなく〈博士〉に針を刺されて、何かが僕の身体に入れられた。

急に与えられた痛みに僕は、くぐもった声を上げてその痛みに耐えた。

 

「あのさぁ、別に逃げたり出来ないんだし、なんか刺すなら一言言ってくれてもっ!!うぐっ!」

「随分早く反応が出ましたねぇ」

「なにごれ!いっ!うあぁぁあぁー!!」

 

〈博士〉が僕から針を引き抜いた事を感触で確認した僕は、再び〈博士〉に愚痴をこぼそうとした。

だけど、その途中で全身を突き刺すような、思いきり手足を引きちぎられるような、強烈で様々な痛みが一気に僕の身体に襲いかかってきて、それどころじゃなくなった。

一方僕を観察しているだろう〈博士〉は、痛みに悶える僕に何の感情も動いていないような平然とした口調で何かを呟きながら、紙にペンを滑らせるような音を立てる。

この人、本当に僕をマウスかモルモットとしか思ってないんだな。

分かってはいたけど、今までで1番人間がされないような酷い扱いに怒りさえ覚えてくる。

だけど、すぐに尋常でないほどの痛みに思考を奪われて、いつの間にか僕は気を失っていた。

 

 

あれからどのくらい経ったか分からないけど、なんとか生きていたらしい僕は再び目を開けた。

 

う〜っ!はぁあれ、僕、生きてる?」

「そのようですねぇ」

「っ!アンタさぁ!」

「おや、この明かりの中で私が見えているのですね」

「えっ?」

 

僕の呟きに、澄ました顔をした〈博士〉はのんびりとした調子で応える。

その態度とさっきの事に怒りを感じた僕は〈博士〉に向かって怒鳴り散らそうと声を荒げた。

だけど〈博士〉は僕の反応など気にせず、何故か僕の視界の具合を聞いてきた。

そこで僕は初めて、あの眩しくて目が痛くなる部屋で〈博士〉の顔が見えている事に気が付いた。

 

「あ、本当だアンタの顔が見れてる。明かり、落としてるの?」

「照明は変えていませんよ。暗くては実験が出来ませんからね。キミが眠っている間に、キミの瞳に合わせた遮光グラスを作って入れてみました」

「僕の眼に、グラス?そういえば、ちょっとゴロゴロする

「ふむ、もう少し調整が要りそうですねぇ」

 

なんで僕の目が眩まないのかを聞いたら、〈博士〉は僕が気絶してる間に光を遮断する黒いグラスを作って僕の眼に入れてくれてたらしい。

しかも僕が何気なく異物感を口にしたら、また改良してくれるらしい。

この人、ちょっとスゴい人だったんだ

 

「それはさておきキミの身体の事は分かりましたが、聞きますか?」

「それも分かったの!?」

 

〈博士〉に、僕が気絶してる間に僕の身体の謎も解き明かしたと言われて、僕は拘束を引きちぎるような勢いで身体ごとその言葉に反応した。

自分の指を動かした感じからそんな長い時間気を失ってはいないハズなのに、もう僕の事を調べ上げたなんて

 

「えぇ。結論から言えば、キミはただの人間です」

「えっ僕が、ただの人間!?化け物の血が混ざってるとかじゃ、なく

「そうなりますねぇ」

 

いったいどんな結果が出たのかと胸を躍らせた僕だったが、〈博士〉が導き出した答えは、僕が想像していた中で最も納得がいかないもので。

呆気にとられた僕は言葉を失いかけた。

 

僕が、普通の人間なわけ無い!!」

「キミは紛れもなく人間ですよ。ただキミの言う通り〈普通の人間〉ではありませんがね」

「普通じゃないって、どういう事?」

 

僕はあまりに納得がいかなくて、怒鳴り散らすように〈博士〉に言葉で食って掛かった。

だけど〈博士〉は全然動じないで、〈普通ではない人間〉とだけ付け加えて、僕に結果の詳細を話しだした。

 

「まず、先程キミに打った薬物ですが。アレは言わば対魔物用の猛毒です。魔物の体内に入ればそのほとんどが死滅し、生き残ったとしても重度の後遺症が残って、やがて死に絶えます」

「うわ〜ひっどい薬

 

この人、仮に僕が魔物だったら普通に殺してたのか。

科学者は時に無慈悲だってどこかで見た気がするけど、この人まさにソレじゃん。

 

「ですがこの薬が人間の体内に入った場合は、全身に耐え難い激痛がきますが、すぐに痛みも引いて後遺症などもほとんど現れません」

だから、今普通に生きてる僕は〈人間〉ってこと?」

「そう言う事です。思ったよりも優秀ですねぇ」

 

〈博士〉の言いたい事を少しだけ先読みして答えたら、〈博士〉は胡散臭そうな笑みを更に綻ばせ、僕の頭を子供をあやすように撫でてきた。

他人より身体の成長が遅いのは自分でも分かるけど

それでも子供扱いされたくない僕は、唯一自由の効く首を捻って〈博士〉の手を拒んだ。

 

「おや、嫌でしたか。これは失礼」

「そんなのは要らないから、早くアンタが出した結果の説明をしてよ」

「では。医科学分野においての〈人間である事の定理〉ですが

「魔力を持ち合わせている事、でしょ。魔物には魔力に似たモノはあっても、魔力は絶対に持ってない」

「よくご存知でしたねぇ。その魔力ですが、キミの測定結果にはしっかりとありました。しかも、その辺の魔道士以上に、ね」

「そんなの、嘘だ!だって!」

「それが、キミにはしっかりあるのですよ」

 

僕にしっかりと魔力があるなんて、全然納得できない。

だって僕は

 

「だって僕は、魔石すら使えないんだ。魔力があるなら、魔石を壊す事はあっても使えないなんて有り得ないじゃん!」

「キミは、そこが〈普通ではない〉のですよ。人間とは面白いモノで、魔力だけがあっても魔石や魔法は使えないのですよ」

「どういうこと?」

 

〈博士〉は、僕が人間なら誰でも扱えるはずの魔石も使えないと言ってもやっぱり動じなかった。

それどころか、まるでココからが面白いのだと言いたげに怪しく笑った。

 

「人間が魔法や魔石を使うには〈魔力を操作する器官〉を通さなければ使えないのですよ。普通ならこの器官は、出来不出来はあれど誰でも機能しています。ですが

僕には、その器官が無い?」

「正確には器官自体はありました。ですが、それが全くと言って良いほど機能していないのですよ、キミは」

 

〈博士〉の説明を全て聞いた僕は、呆気に取られながらも納得した。

どんなに魔力があったって、それを扱う器官がダメなら魔法どころか魔石も扱えるわけがない。

有り余る魔力を体外に出す事が出来ないんだから、当然だ。

そしてきっと、僕がいた街じゃそんなこと調べる事すらなかったんだろうな。

 

「おや、涙など浮かべてどうかしましたか?」

「えあれ、なんで?すごく納得したのに、涙なんか

 

予想外だったけど辻褄が全部合った説明に、僕は知らず知らずのうちに涙を流していた。

なにかがストンとハマったような、満たされたような感覚

きっとこれが、僕が初めて〈感動〉して〈満足感〉を感じた瞬間だと思う。

それと同時に、この人に対しての僕の見方がガラリと変わった瞬間でもあった。

 

「それにしても、アンタって本当にスゴい人だったんだ。誰も僕の体質なんて気付かなかったのに、あっという間に調べあげちゃうとか

「私としては、医学の人体基礎がある者ならこの程度すぐに気付いても良いと思うのですがね」

 

やれやれといったように肩を竦めた〈博士〉は、ため息まじりに呟いた。

〈この程度〉か。

この人にとっては〈この程度〉でしかないんだ。

僕からしたら、まるで神様みたいなのに。

 

「ねぇ。このあとは、なにするの?」

「そうですねぇ。キミを買った当所の予測では新種の魔物かと思ったのですが、全く違いましたからねぇ」

 

僕がこの後の事を聞くと、〈博士〉は少し考える素振りを見せた。

言葉では僕の存在が予想と違った事に悩んでいるような事を言ってるけど、その顔はむしろ嬉々としていて。

子供みたいに楽しそうな表情だった。

そしてすぐに〈博士〉は何かを思いついたように頷いてから口を開いた。

 

「では、せっかく潤沢な魔力を秘めていますし、まずはその魔力を抽出する方法でも探りましょう。キミのように、魔力があっても使えない者の魔力を抽出して使えれば、様々な事に活かせそうですからねぇ」

「ま〜たなんか面白そうな実験だね」

「自分の身体で実験されると言うのに、ずいぶんと楽しそうですねぇ」

「痛いのは嫌だけど、それよりアンタの実験で出てくる結果の方が楽しみなんだから、仕方ないじゃん」

「変わってますねぇ」

「こんな人体実験をホイホイやるアンタも、相当変わってるんじゃない?」

「それもそうですね。では、時間も惜しいので早速始めましょう」

 

どうやら次は、僕自身じゃ使えない膨大な魔力を抽出して使えるようにする実験をするみたいだ。

他人の魔力を使おうなんて、やっぱりこの人は面白い事をやってくれる。

僕はこの人に身体と命を預けて、ここに来る前では絶対に知ることの出来なかった楽しそうな事を教えてもらうんだ。

そう思ったら、この後の実験で生じる痛みにも自然と耐えられた。