第6話「手がかり」


 

二時間ほど南に馬を進めると、正面に大きな三層の城壁とそれを突き破るようにそびえ立つ城が見えてきた。

人間の首都にして最大の都、グリンフィールだ。

 

「見えてきた。二人とも、もうすぐグリンフィールに着くわよ」 

「ふわぁ…もう着いたのかい?」

 

私が後ろの二人に声を掛けると、二人分のあくびと少し眠そうなオリ君の返事が返ってきた 

妙に荷台が静かだとは思っていたが、二人とも初めての馬車に疲れて眠っていたらしい。

はじめこそ気怠そうな声をあげていた二人だったが、周囲の景色の変化に気付くと途端に元気を取り戻したように声をあげた。

 

「大きな壁…!」 

「レオナ、あれは城壁って言うんだよ。グリンフィールは人間が住む町の中で最も大きいって言うだけの事はあるよね」

「ふふ…」

「城壁…ってフレス、今私をバカにしたわね」

「レオナをバカになんてしてないわ。二人の会話が微笑ましくて笑っただけよ」

 

城壁を「大きな壁」というレオナとそれを訂正するオリ君との会話が微笑ましくて、私はクスクスと笑みをこぼす。 

二人に背を向けた状態で私が笑っていた事なんて気づかれもしないと思っていたが、すぐさまレオナに気付かれたうえにバカにしたと勘違いされてしまい、慌てて弁解した。 

ワーウルフの耳と鼻は犬や狼と同等かそれ以上だということに改めて驚かされつつ、わたしは話をそらすようにオリ君に話しかけた。

 

「よく遠出するオリ君でも、グリンフィールは初めて来るの?」 

「いや、大分前に何度か来たことはあるよ。その頃から王宮や教団はあったから比較的守りは固かったけど、数十年前からここに攻め込んだ奴等の大半が返り討ちに合ったって噂が頻繁に流れてからは、興味はあってもなかなか来れなかったんだ」

「そうだったの。数十年前、かぁ…」

 

どうやらオリ君は帝都が様変わりする前に数回来たことがあるらしいが、魔物にとって危険な場所になったと噂が流れだした頃からは身の安全を優先して近寄らないようにしていたらしい。

数十年前となると、ちょうど魔物を探知して知らせる様々な装置が稼働しだした頃にあたる。

この頃から一気に魔物の被害が減り、たとえ攻め込まれてもすぐに返り討ちにできるようになったと子供の頃にシスターから何度も聞かされたものだ。

 

「ちょっと待って、数十年も前なんて。オリ君、今何歳なの!?

「そうだな~。人間がまだ猿みたいな生活をしてた頃にはもう生まれてたかな~」

「えぇ!?

「…なんて、冗談だよ。いくら魔物が人間より長生きでも、一万年以上生きる種族なんて竜と一部のトレントくらいだよ」 

 

オリ君はこんなに幼い見た目でも私よりずっと年上という驚愕の事実につい振り返って彼の顔を凝視すると、彼は何でもない顔で何千年以上も昔からいたと返して来てさらに驚かされる。 

そしてその言葉を真に受ける私を見たオリ君は、心底楽しそうに笑いながら冗談だと教えてくれた。

 

「もう、実は相当なお爺ちゃんなのかと思ってビックリしちゃった」 

「あはは、人間は魔物より遥かに短命だから何十年ってくらいで驚いたんだろうけど、まさかその後の冗談まで真に受けるとは思わなかったよ」 

 

彼の冗談に驚き流されて結局オリ君が何歳なのかは分からなかったが、私より年上でもおそらく吸血鬼としてはまだ子供なのだろうと思う事にした私は、今後の予定を話し合うために帝都入り口の数キロ手前で馬を止める。 

オリ君は何でもないように明るく話していたが、やはり今のグリンフィールは魔物にとって最も危険な場所だと言われているらしく、それを聞いたレオナは一気に警戒モードに入ってしまっていた。 

だが、急に守りが堅くなった人間の都に何らかの興味があったオリ君は、珍しく口元が弧を描くように吊り上がっていた。 

 

「ねぇオリ…そんな危険な場所に、私たちが行っても大丈夫なの」 

「それは僕にも分からないよ。でも、僕たちをここに連れて来たフレスさんなら何か対策でもあるんじゃないかな」 

「ごめんなさい、私にもコレといった対策はないの…だから、町に入るかは今から話すことを聞いてから二人で決めてほしいの」

 

レオナは明らかに不安そうな顔をしてオリ君に安全を問うが、聞かれたオリ君にも特に安全策がある訳でもないらしく、さらに私に策はないかと話を回された。

だが、残念ながら私も絶対安全な策などは持ち合わせていないので、とりあえずグリンフィールの特殊な施設や設備の話をすることにした。

 

「二人にとってまず気を付けなきゃいけないのは〈アルメリス教団〉と〈フィルレフェリング〉だと思うんだけど、聞いたことあるかしら」

「アルメリス教団はたしか、僕たち魔物を根絶やしにしようとしてる迷惑な組織だね。フィルレフェリングの方は聞いたことないな」

 

どうやらオリ君は教団の事はおおよそ知っていたようだが、レオナの方は教団の事すら知らなかったようで終始無言で私たちの会話に耳を傾けていた。

 

「じゃあ、まずは〈フィルレフェリング〉について説明するわ。これは街の中心部に設置されている大きな門に付いていて、通った者が人間か魔物かを識別するものなの。もし魔物を探知したら町中に警報が鳴り響いて、警備隊や教団員たちが駆けつける仕組みよ」 

「厄介そうだけど、街の中心部に近づかなければ大丈夫そうだね」

「そうね。それより問題なのは、教団の人が持っている〈ゲデュムファインド〉っていう探知機だと思うわ。これは探知機と通信機を合わせたみたいなもので、魔物を感知すると付近の隊員に一斉に連絡が回るの。」

「なるほど、難攻不落なんて言われてる裏にはそんなカラクリがあったんだね。どおりでことごとく返り討ちにされるわけだ」

「これを持ってる教団の人は黒い制服を着ているから見たら気を付けて。貴族街の外では魔物の被害が出たなんて事もよく聞くから、教団の人に見つからなければ多分大丈夫だとは思うんだけど…」

 

私の話を一通り聞いたオリ君は納得したように頷いた。 

そして何かを考えるように顎に手を当てて小さく唸りだしたが、すぐに顔をあげて口を開いた。

 

「少し危険だけど、やっぱり中の様子も気になるからフレスさんに付いて行くよ」

「オリ、本当に行くつもりなの…?」

 

私の話から何とかなると考えたオリ君は街の中に入る事を決断したが、ずっと静かに話を聞いていたレオナは行きたくないらしく、不安げな表情でオリ君に問いかける。 

彼女がオリ君の決定に戸惑い渋る姿は初めて見た。

だが、彼女の行きたくないという気持ちは分からなくもない。

吸血鬼の住処に一晩泊まっておいてなんだが、私だって魔物の巣窟にスタナと二人で行けと言われたら怖くてたまらない。

 

「一般人ならある程度は誤魔化せても、探知機に見つかったら私もフォローできないと思うわ。それでも行くの?」 

「話を聞く限りだと中心部にある貴族街と教団本部はかなり危険だけど、そこにさえ行かなければ逃げる事は出来ると思うから大丈夫だと思うな。過去に命からがら逃げ延びたヤツの話も聞いたことがあるし何とかなるさ。だからレオナも行こうよ」

 

再度オリ君に問いかけても彼の決断は変わらないようで、結局レオナもいつも通りオリ君に従う形で街に入ると決断したようだ。 

そうと決まると、ふたたび馬車に乗りこみグリンフィールの下層街へと入って行った。

私も知らない探知機などがあったらどうしようかと思ったが、そんな装置は無かったようで難なく街の中に入ることができた。 

街の入り口付近には数人の人が道を歩いていたが、皆どこか薄暗い顔をしており少し小道に目を向けると地面に腰を下ろしながら項垂れている者がいたりと、相変わらず荒み気味な嫌な空気が漂っている。

その光景を、レオナはまるで全てを敵視しているような鋭い目つきで睨むように、オリ君は顔が見えないようにしながらも興味深々に見渡していた。

 

「人間最大の都市っていう割には活気がないね。人間の多くはここに移住したがるらしいけど、フレスさん達みたいに地方で暮らす人の方がまだ楽しそうに過ごしている気がするよ」 

「街の外側は通称下層街って言って、移民や身分の低い人が多く暮らしている場所で魔物の被害も多いの。でも教団や皇帝騎士団がすぐに被害を鎮静化するから、地方よりも帝都の方が安全だって思う人が多いのよ」 

 

今のオリ君はフードを深く被っていて表情が見えないが、頭の部分が少し上下に動いていることから、どうやら私の返答で納得したらしい。

オリ君はもっと街を散策したいだろうが、今日はあと数刻で日が暮れてしまうため、とりあえず近くの宿を確保することにした。

宿屋の受付にいた老婆から受け取った鍵を使って扉を開けると、そこには明らかに老朽化したベッドが二つとこれまた古ぼけて今にも折れそうな衣装かけだけが置いてあった。

下層の宿はあまり良くないと聞いていたが、あまりの酷さに自分で選んでおきながら言葉を失いそうになる。

 

「ずいぶんボロい部屋ね。しかもフレスが三人って言ったはずなのに、ベッドが二つしかないじゃない」 

「普段借りてる中層の宿なら設備もしっかりしてるけど、ここならもし二人が魔物だってバレた時に逃げやすいかと思ったんだけど…もう少し中層寄りの宿の方がまだ良かったかしら…」

「たしかに酷い内装だけど、野宿するよりは断然いいさ。それにフレスさんが言った通り、ここならすぐに街の外に逃げられるからその分安心して使えて良いと思うよ」

 

部屋の内装を見るなり、レオナは小声ながらも次々と文句を口にした。 

今からでも少しマシな宿に変えようかと思ったが、多角的に見れば利点が多いと言いながら楽しそうにベッドに飛び込むオリ君の様子から、私もレオナも今夜はここで良いかと思いなおすことにした。

これも旅のよい思い出になると笑みを浮かべたが、オリ君のマネをしてレオナまでベッドに飛び込んだ時には慌てて二人を叱りつけた。

さすがにベッドを壊して修理代を請求されるのは御免だ。

 

「そんなに怒鳴らなくたって良いじゃない…」

「あはは、すこしふざけ過ぎちゃったね。ところでこの後はどうするんだい」

 

私が叱りつけたことでレオナは機嫌を悪くしてそっぽを向いてしまったが、先の予定をオリ君に聞かれて今後の事を話し合う事になった。 

 

「前にも言ったけど、私はスタナに仕事を依頼した人に会いに行ってくるわ。あの人は主に教団か貴族街にいるから、しばらくは別行動ね」 

「それならただ待ってるのもつまらないし、その間に街を散策してもいいかな」

「…そうね、騒動が起きなければ良いんじゃないかしら。でも日が沈むまでにはここに戻ってきてね」

 

私がこの後別行動になることを二人に話すと、オリ君は目を輝かせながら街を見て回りたいと言い出し、それを聞いた私は街の人に彼の顔を見られたらと考え少し口ごもる。 

だが、彼は好奇心に負けて冷静な判断を怠るような性格ではないし口も達者のため、顔さえ見られなければ大丈夫だろうという考えにいたり街に出かける事を認めた。

するとオリ君は嬉しそうに笑って私に一言お礼を述べると、会話の勢いそのままにレオナに声をかける。

 

「フレスさんの許可も出たことだし、行こうレオナ」

「私はここに残るわ。人間とはできるだけ関わりたくないもの」

「そうか。それじゃあ、留守はよろしくね」

 

私はてっきりレオナもオリ君に付いて行くものと思っていたが、彼女はここで待つと言い出し、それを聞いたオリ君もあっさりとレオナに留守を預けた事に少し驚いた。 

ひとまず日が暮れるまでの行動が決まったので、私とオリ君は留守番をすることになったレオナに鍵を預けて部屋を出た。

 

 

私がアルメリス教団本部の入り口に着く頃、ちょうど夕方のお祈りが終わったようで大勢の人が本部横に設置された大聖堂から出て来るところだった。 

多くの人が街へと向かう中、その人ごみに紛れるように出て来るフェミさんを運良く発見した私は、すかさず声をかけながら彼女に近づいて行った。

 

「あ、フェミさん!!」 

「まあ、フレスさんではないですか。先日お会いした時よりもだいぶ痩せられているように見えますが、お身体は大丈夫ですか」

「私、そんなに体格変わってましたか…?」

「以前お会いした時は頬が程よくふっくらなさってましたが、今はまるで誰かに頬を削がれたのではないかとさえ思うほど痩せてしまわれてますわ」

 

するとフェミさんも私に気付いてくれたようだが、私の顔を見たとたんに心配そうな表情で駆け寄り、その細くて長い両手を私の両頬に添えて軽く撫でまわしてきた。 

自分では痩せていた事に全く気付いていなかったが、これといった不調は感じていなかったので大丈夫だと告げて手を離してもらった。

 

「あの、今日は兄のことでお伺いしたい事があって来たのですが、すこしお時間を頂いても宜しいでしょうか」 

「スタナさんの事、ですか。あまり時間は取れませんが、公務をしながらでよろしければお聞きしましょう」

 

私がスタナの事を聞きに来たと告げると彼女はすこしキョトンとした顔をしたが、仕事をしながらでよければと快く聞き入れ、彼女の執務室に案内された。 

教団の奥に位置する彼女の執務室に来るのは二年前の魔道士認定試験以来だが、少し資料が増えていること以外は変わらず、しっかりと整理されていた。

その部屋の中央に位置する来客用の椅子に座るように言われて席につくと、甘酸っぱいようなさっぱりした香りの紅茶を出してくれた。

 

「どうぞ、宜しければお飲みになってください。このお茶はとても香りが良くて心が落ち着きますよ」 

「ありがとうございます」

「それで、スタナさんについて聞きたい事とは…」

 

私に紅茶を出したフェミさんは優しく微笑むと、私の向かいの席に腰を下ろした。 

そして私が紅茶に口を付けて落ち着いたところを見計らうように話を振ってきたので、あれからスタナが行方不明になっており彼を探しに行くことを話した。

一通り話を聞いた彼女はとても驚いた顔をしていたが、何かを考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「あのスタナさんがまだお帰りになっていないなんて…ですが、そういう事でしたら私が知りうる事はお話しますわ。私が最後に彼と話をしたのは、彼に依頼した任務が終わった後です。予定よりも早く任務が終わったので、故郷にあるご両親のお墓参りをしてから帰られると仰ってここを出て行かれたのが最後です」 

「お墓参りって、いったいどこに…」

 

事情を知ったフェミさんは、順を追うように分かりやすく話してくれた。 

どうやら無事に依頼は終わっていたようでひとまず胸を撫でおろしたが、彼が向かったという故郷の場所が分からなかった。

私たちは孤児としてこの街で育ったが、私には故郷の記憶も無ければ両親の顔すらも憶えていない。

スタナに故郷の話を聞いてみたこともあったが、その時の彼は渋い顔をしてあやふやな返答をしていたので、幼心に何となく聞いてはいけない事だと思い深くは追求せずにいたのだ。

 

「フレスさんはご存知なかったのですね。私も詳しい場所までは分からないのですが、大陸の南側フォクシード地方東南の外れにあったフラウリアスという村がお二人の故郷だと伺っています」 

「分かりました、詳しい場所はその周辺に現存する村に行って聞いてみます」

「お待ちになってください。フォクシードへ行かれるのでしたらコレを…」

 

話を聞き終えた私が宿に戻るため執務室の扉に手を掛けた時、何かを思い出したように慌てたフェミさんに呼び止められた。 

すると彼女は自分の作業用デスクに向かい、鍵の掛かった引き出しから一枚のカードを取り出して私に手渡してきた。

カードには風を現す属性マークを背景に〈国家魔法試験 認定証〉と大きく書かれており、その文字の下に私の名前が記載されている。

 

「これは魔法試験に合格した者に交付され、その後の魔道士としての活動を記録し、身分と実力を示す証です。本来なら試験に合格した時に交付されるのですが、フレスさんの魔道士としての経験を考慮したスタナさんから預かるよう頼まれ保管していました」 

「あの、この証はもうひとつ上の試験に合格しないと貰えないって…」 

「それはスタナさんの嘘ですね。その証があるだけで危険な依頼も受けられてしまいますし、元々フレスさんが魔道士になる事に反対しておられたスタナさんらしい嘘ですわ」

 

短い説明と共に渡された認定証はまだ貰えないものだと思っていたが、それはスタナの嘘だとあっさり否定された。 

自分の身分を証明する大切な証を二年も騙し隠されていたとは思ってもおらず、驚きと少しの怒りからつい眉間にしわを寄せ口を半開きにして証を凝視してしまう。

フェミさんはそんな私を微笑ましそうに見つめて、再び話しを始めた。 

 

「怒りを覚えるのも分かりますが、フレスさんを危険にさらしたくないというスタナさんの優しさも分かってあげてください。それから、フォクシードには人間や動物を捕食する植物の魔物が多く確認されていますのでお気を付けください」

「分かりました。行ってきます」 

 

先ほどとは打って変わって心配そうに話すフェミさんに、敢えて笑顔で答えて部屋を後にした。 

教団の外に出ると暗い夜道を街頭のランプがオレンジ色に照らし出しており、私のお腹も空腹を訴え出してきた。

一緒に来てくれた二人もきっとお腹を空かしているだろうと思った私は、行きつけの飲み屋で何品かおかずを買って宿に戻る。

私が宿の部屋に戻ると、先に戻っていたオリ君がレオナと共に必死で練り飴を練っているところだった。

 

「ただいま。その練り飴、どうしたの?」

「おかえりフレスさん。広場まで行ったらこれの実演販売をしてたんだけど、じっと見てたら欲しがってると思われて売れ残りを貰ったんだ。そっちは何か情報でも見つかった?」

 

そう言いながらオリ君は二本の棒を使って空中で柔らかい飴をグルグルと練りまわすが上手くいかず、すくったそばから飴が容器へと落ちている。 

それでも彼は懸命に飴を練りまわしながら、何か成果はあったかと私に聞いてきた。

 

「えぇ、依頼の後スタナがサーズトラードのフラウリアスって廃村に向かった事が分かったの。だから、食べたらすぐ向かいましょう!」 

「今から行くのかい!?フレスさんはここまで馬車を走らせてすぐ情報収集に行っちゃってたし、少しは休んだ方が良いんじゃないかな」 

「でも…」

 

スタナの足跡を知って居ても立っても居られない私は気持ちを抑えられず、夕食を済ませたらすぐに街を出ることを提案したが、その提案は少しは休むべきだと言うオリ君に否定されてしまった。 

それでも早く行動を起こしたい私は不満の声をあげる。

するとオリ君は大きな溜息をつきながら手を止めて、まるで諭すように話し出した。

 

「落ち着いてよフレスさん。僕だって早く探しに行きたい気持ちは分からなくもないよ。でも南の魔物は夜行性だったり昼夜問わず活発なヤツも多いし、今はゆっくり休んで体制を整えるべきだよ」

「私はそんなに疲れてないし…」

「そうかな、僕には今のフレスさんじゃ放っておいても死んじゃいそうに見えるよ。それに、フラウリアスに着いてもスタナさんがそこにいるとは限らないし、休める時に休んでおくべきだよ」

「あ、そっか。フラウリアスに行ってても、また別の場所に向かったかも知れないのよね…」

 

オリ君の話し方が上手いのか先ほどまでの焦りは少しずつ落ち着き、自分の無謀さに気付かされた私は素直に彼の意見を受け入れる事にした。 

するとオリ君は今までまとっていた大人びた空気を一気に崩し、子供のように練り飴を私に差し出して「やってみて」と言ってきたので、一口分を手早く練り固めて彼に渡してやった。

練った飴を受け取ったオリ君は「ふむふむ」と何かを考察しだし、難なく飴を練り上げる私を見たレオナは負けず嫌いな性格からムキになりながら再び練り飴と格闘を始めた。

 

その後は私が買ったおかずをつまみながらフラウリアスまでの動向を確認してすぐに眠る事になった。 

だが私はフェミさんと話をした後から続く妙な胸騒ぎから上手く眠れず、寝ては起きを繰り返しながら朝を迎え、街の人たちが活動を開始する前に街を出て南へと向かった。